2023年10月号
19 Oct 20232023年10月号
2023年10月号 フィリピン移転価格税制:Characterization(事業特性)とは?
今回は、フィリピン内国歳入庁(BIR)から2019年に発行されたRAMO No.1-2019 におけるCharacterization(事業特性)の考え方についてお伝えします。
Characterization(事業特性)とは何か。
前回の記事「移転価格文書における機能・資産・リスク(FAR)分析」では、移転価格分析の主要な構成要素であるFAR分析において、関連者間取引において担っている機能、保有してる資産、引き受けたリスクの分析結果から、類似の独立した取引から得られる収益の水準と比較し最適なベンチマーク分析や独立企業間価格計算方法を決定すると記載しました。
同様に、FAR分析をベースに導かれる事業特性は、FAR分析と同様に「企業が営む事業における産業・業界の中で、位置づけられた事業特性において、関連者間取引の経済的リスクと相応の利益が適切に分配されているか?」を検討する上で重要な事項となります。
なぜCharacterization(事業特性)が重要なのか。
正確な事業特性を決定することによって、事業体による製品・サービスの適正価格や収益レベルを知ることができ、信頼性のある比較対象取引の選択を行うことができます。
本格的製造会社が得られる価格や収益水準と、受託製造会社を比較することはできないことから、事業特性は、企業のTPDにおける価格または収益のベンチマーク分析と強い関連性があります。
例えば、契約製造会社や受託製造会社は、関連当事者から注文された生産のみを扱い、業務戦略の設定、商品の研究開発、販売などの他の機能を果たさないため、一定水準の利益率を維持することが期待されます。経済協力開発機構(OECD)の移転価格ガイドラインに従い、企業の組織構造、関連会社の支配や影響度合い、関連当事者間の取引実態を考慮し、FAR分析を行うことで適正な事業特性を決定づけます。
Characterizationの例は何か。
事業活動や取引実態の性質に基づいて、一般的に使用される事業特性を以下に列挙します。
■製造: Full-fledge/Contract/Toll-manufacturers
・本格的製造会社(Full-fledged manufacturers)
労働力・研究開発(R&D)・製品企画・原材料調達・製造工程・品質管理・物流など精算・販売機能をすべて担い、それに伴うリスクを負います。
・契約製造会社(contract-manufacturers)
限られた製造機能を遂行し、通常、委託者と事前に合意された数量及び日程に基づいて、買取り保証付きで製品を生産するため、限定的なリスクを負います。
・受託製造会社(Toll-manufacturers)
契約製造業者とは逆に、委託者が原材料、部品を支給し生産を委託する形態で製造機能が非常に限定的であり、原材料・完成品の法的所有権もなく、在庫リスクや調達リスクも負いません。
■販売: Full-fledged/Limited risk distributors、Commissionaires
・本格的販売会社(full-fledged distributors)
マーケティングから在庫管理に至るまで、販売・流通のすべての機能を遂行し、それに伴うリスクを負います。
・リスク限定販売会社(limited risk distributors)
自ら仕入れて販売するものの,プリンシパルとの契約により在庫リスクや信用リスクがカバーされる形態で、限られたリスクで売買機能を果たします。
・コミッショネアー(Commissionaires)
市場において自らの名で商品の販売または購入を行う営業代理店しての役割を果たし、販売に基づく手数料を受け取り、商品の所有権を持たず、限定的なリスクを負います。
■サービス・プロバイダー: full-fledged/risk mitigated/routine service provider
・本格的サービスプロバイダー(full-fledged service provider)
サービスの研究開発やコンセプトからサービスの提供や保証に至るまで、すべてのサービス機能を遂行し、それに伴うリスクを負います。
・リスク軽減/日常的サービスプロバイダー(mitigated/routine service provider)
プリンシパルによって決定される日常的なサポートサービスを実施し、限定されたリスクを負います。
移転価格調査におけるCharacterization(事業特性)の影響は何か?
通常、移転価格調査は、3つの主要な項目である「関連者間取引に関する事業特性付け」、「移転価格算定方法の選択」、「独立企業原則の適用」が評価対象となります。
内国歳入庁(BIR)は、関連者間取引の経済的実体がその事業特性と異なっている場合、または関連者間取引で行われた取決めがビジネス上合理的でない場合に、関連者間取引に関する事業特性を再評価することになります。
RAMO No.1-2019でも、事業特性を再評価する必要性は、取引の特性が当事者間の関係から導かれ、通常の独立した条件によって決定されない関連者間取引は、納税者による意図的な税金回避または最小化の潜在的リスクがあると推定されます。
潜在的リスクの認識は、以下の観点に基づき判断されます。
(a)関連当事者間では資本関係のない第三者との取引に通常起こりうる利害関係を考慮せず、様々な契約を締結することができる、
(b)関連当事者は、資本関係のない第三者とはめったに遭遇しないであろう特定の取引性質について合意する、
(c)関連者間取引に基づく契約は、関連当事者のグループ全体の戦略に従って、容易に変更・停止・延長・終了される。また遡及的に行うことができる。
Characterization(事業特性)の検討は、TPDにおける形式的なものではなく、移転価格算定方法の選択、比較対象企業の特定、ベンチマーク分析の結果に影響を及ぼします。
BIRには企業の関連者間取引を再評価する権限が与えられており、Characterization(事業特性)に関する誤ったアサーションによってベンチマーク分析結果が適切ではない判断された場合には、移転価格調査の中で推定課税を受けるなど重大な影響を及ぼす可能性がある為、企業の事業特性を正確に評価することが重要となります。
会社紹介
P&A グラントソントン ジャパンデスク (担当:岡村、大橋)
現在約300社の日系企業へサービスを提供。現地経営者、フィリピンマーケットへ進出を検討している日本企業の皆様へより、業務に深く関わったサービスを提供するべく現地マニラにて計2名の日本人が対応しています。
P&A グラントソントン
1988年Benjamin R. Punongbayan と Jose G. Araulloによって設立。現在は、Chairman & CEO であるMa. Victoria Espano が指揮の元フィリピンTOP4規模の会計会社として、主にフィリピン企業の顧客を始め、外国企業のフィリピン進出増加と共に、日系企業へのサービスも提供。2023年現在パートナー25名、社員1,350名の体制で構成されており、インターナショナルファームの一つである、Grant Thornton (グラントソントン)と提携し、そのノウハウを活かしながら、クオリティの高いサービスを、大手顧客から、ミッドサイズ、外国企業、スタートアップ企業まで幅広い顧客層へ提供しています。
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