もし工場長が企業経営者になったら

第15回 人・組織に対する客観視(3) ー離職率の高さについてー

P&A グラントソントン 伏見将一

日本の工場長からフィリピン法人社長に就任した場合、経営の知識・経験が不足していたとしても、経営者になったからには経営全般に対して責任を負い、自社の客観視を行う必要がある。

フィリピン法人の事業戦略を実行するにあたっては、フィリピン法人の人・組織が重要となる。フィリピン法人の経営者は、日本の組織に属し日本人を指導してきた経験はあっても、外国の組織に属し外国人を指導した経験がないにも関わらず、経営者としてフィリピン法人の組織マネジメントを行う責任がある。

今回は、フィリピンでビジネスをする場合の大きな課題のひとつである離職率の高さについて考えていく。

 

フィリピン労働者の特徴

豊富な労働力が魅力となっているフィリピンで、大きな悩みのひとつは従業員の離職率の高さである。フィリピンでは、特にナレッジクラスの労働者の定着率は高くない。フィリピンはアメリカ型のカルチャーに影響を受けている影響もあり、転職はキャリアアップの機会と考えられているため、給料が高い、仕事が楽、家から近い等、少しでも条件の良い会社があれば転職を考えるのが一般的である。また、ご存知の通り、海外に出稼ぎに行くために離職するケースも多い。 

フィリピンで働く日本人の中には、フィリピン人は日本人と比べて愛社精神が弱いと感じられる方も少なくないであろう。フィリピン人は、会社のために働いているのではなく、自分・家族のために働いているという考え方が強いため、1つの会社に長期勤務する事が大事であるという発想はない。一方で、もともとフィリピン人は、義理、恩義に厚く、目上の人には忠誠心が高いという国民性があるといわれ、日本の家族的な経営が受け入れられる余地がある。

 

企業ができること

離職率を下げるために、給与水準の定期的な見直しや充実した福利厚生制度等、待遇面での労務管理は重要であることは言うまでもないが、フィリピンにおいて特に鍵を握るのは、従業員との綿密なコミュニケーションである。このコミュニケーションを通じて、従業員が会社から認められていると感じ、仕事にやりがいを持ち、成長する機会が与えられていると感じる。従業員との信頼関係の構築が進めば進むほど、離職率を下げることにつながる。 

具体的には、組織人ではなく私人としてフィリピン人を捉え、①労使間の日々のコミュニケーションを重視し、②日頃から情報共有を図り、③会社の目標等をしっかりと伝えることが重要である。加えて、採用にあたっては、日本と同様に書類選考、試験、面接をしていくが、バックグラウンド調査は重要である。結婚しているか、子供はいるか、子供は何歳か、誰と暮らしているか、誰が生計を立てているか、両親は誰が面倒を見ているか、兄弟はどのような仕事をしているか等確認をして、その人物が家族の中でどのような位置づけとなっており、その人の収入に家族がどの程度頼ることになるのか(離職しやすそうかどうか)、一緒に暮らしている人の中に危険そうな人物はいないか(会社でトラブルを起こす要因はないか)、転職者の場合、前職・前々職の職場に連絡をとり、そこに務めていたときの勤務態度やどうしてやめたのかなども聞いて、できる限りその人物の事について把握することが重要である。

 

日系企業では、アウティング(遠足)やクリスマスパーティー、社食、優良従業員に対する各種表彰、インセンティブ旅行等などいろいろと工夫を凝らしている。また、専門職や幹部候補になる人材は、特に自身のキャリアアップと地位向上を強く望む傾向があるため、企業にとって、人材育成の方針やその人材に求める能力を日頃から明確に伝えることも、優秀な人材確保・育成のための鍵となる。

 なお、コミュニケーション不足が不正行為につながることもあるため、日頃のコミュニケーションを通じて従業員との信頼関係を築くことが、不正行為を防ぐことにも役立つ。

 

伏見 将一(ふしみ しょういち) P&A グラントソントン Japan Desk Director 公認会計士(日本)

2005年に太陽有限責任監査法人入所。上場企業及び外資企業に対する法定監査業務、財務デューデリジェンス業務や上場支援業務等に従事。また、軍師アカデミー会員として中小企業コンサルの経験を有する。2013年よりフィリピンTOP4の会計事務所であるP&Aグラントソントンの業務に関与。日本の会計・税務との相違に基づいたフィリピンの複雑な会計・税務に関する実務的なアドバイス等、日本人経営者および日系企業の多様なニーズに対応したサービスを提供している。

P&A グラントソントンJapan Desk:約200社のフィリピン日系企業に対して、監査、税務、アウトソーシング、会社設立、アドバイザリー等会計全般サービスを日本人4名体制で提供している。

お問い合わせ:

Japan.Desk@ph.gt.com