• もし工場長が企業経営者になったら 第7回

もし工場長が企業経営者になったら

第7回 財務に対する客観視(6)- 会社がもうかっているか?3 -

P&A グラントソントン 伏見将一

工場長からフィリピン法人社長に就任した場合、会計や税務の知識が不足していたとしても、経営者になったからには経営全般に対して責任を負い、自社の客観視を行う必要がある。客観視のためには財務報告内容の把握が必須である。またフィリピン法人の経営者は、フィリピン法人の事業の責任を負っているとともに、その事業の結果を親会社に財務報告として説明する必要がある。 

 

アメリカ・ドイツと比べて日本の製造業の総資産利益率は低い?(つづき)

前回まで、総資産利益率(ROA)という指標について説明した。この指標は、会社がどれだけ「投資したお金」を使って、どれだけ「リターン」を生み出しているのかを示す指標で、数値が高ければ収益性が高い、すなわち儲かっていることを示すものであった。また、この総資産利益率(ROA)は、総資産回転率と売上高利益率に分解できる。

ROA formula

前回も説明した通り、「総資産回転率」と「売上高利益率」という視点で、日本企業とアメリカ・ドイツの企業とを比較すると、日本の企業は「できるだけ小さな資産で大きな売上高をあげる(総資産回転率)」という点ではアメリカ・ドイツの企業と同程度にある一方、「できるだけ小さな売上高で大きな利益を上げる(売上高利益率)」という点は低い。

なぜ日系企業の売上高利益率が低いのか?一緒に考えていきたい。

 

利益の大きいA製品と売上の大きいB製品

あなたは「売上高が10億円で利益が2億円のA製品」と「売上高が20億円で利益が1億円のB製品」があるとして、どちらに注目するだろうか。

一般に、日本の経済社会においては、売上を重視する傾向が強い。先の例では、たとえ後者の利益額が1億円であったとしても、後者の製品が注目されやすい傾向がある。会社の企業規模の拡大というのは、売上高・シェア・資産額・従業員数等の量的側面で図られることが多いためである。一方、利益や生産性といった質的側面は軽視されてきた傾向にある。そのため、経営者のモチベーションとして、多少採算を度外視したとしても、売上規模を拡大したいという意向が強い。

この売上規模の拡大のため、ライバル会社との競争に打ち勝って市場でのシェアを拡大するための手法として使われてきた戦略の代表例が、薄利多売戦略である。薄利多売した場合、販売数量が同じでは利益幅が小さくなって費用を賄えなくなってしまうため、販売数量を毎期大幅に伸ばし続けていくことが必要となる。

日本の市場が成長しているような状況であれば、販売数量を伸ばして、利益を確保することができたが、市場が成熟した今の日本国内の状況では、この戦略は一般には望ましいと言えない。これまでの量の拡大とは違う質の改善への方向転換が求められている。高い価格でも顧客が購入してくれる魅力的な高付加価値の商品・サービスを提供すれことで、売上高利益率を上げ、収益性を高める事が可能である。

 

強気の価格決定が苦手?

あなたの会社は、付加価値の高い製品をつくりだし、強気の価格設定をしたいとする。しかし、競合他社はより低い価格で競合製品を売り出すと知ったら、あなたはどのような意思決定をするだろうか。

日本企業は高い技術力と、質の高い労働力をもって、付加価値の高い製品・サービスを提供する底力がある。実際、海外ブランドの製品と比較しても、日本ブランド製品の付加価値が高い。それでいて、日本ブランド製品の方が価格が安いケースも多く見受けられる。日本国内市場での熾烈な競争で生き残るため、たとえ高い技術や機能、質の高い人的サービスが付与されていたとしても、価格を抑える傾向があると言われている。

 

ハイリスク・ハイリターンVSローリスク・ローリターン(安定志向)

利益であるリターンは企業のリスクに応じる。リスクが低ければリターンも低いし、リスクが高ければリターンも高い傾向にある。

これを、製品の価格設定という点から考えてみる。リスクをとって他社がしていないようなことに挑戦し、それが消費者にとって受け入れられるものならば、高い価格設定として高収益とすべきである。他社がしていないようなこととは、「他社が売っていないような製品」だけでなく、「他社が行っていないようなサービス」「他社が行っていないような新しい見せ方・売り方」等もある。

一方、これまでの延長線上であれば、リスクは低いが、高い価格設定は難しい。日本の企業は、長期・安定志向であり、リスクをとらないことが多い。加点主義よりも減点主義という文化に加え、終身雇用、年功賃金等を実現するためには、リスクを犯さずに企業の存在が長期的なものである必要がある。また、従業員だけでなく、部品メーカーをはじめとする下請けグループ、メインバンク等は、日本企業は長期的な取引関係に固定されることが多い。

この安定志向で投資の金額や売上も安定しているという状況は、インフレかデフレかでメリットにもデメリットにもなる。インフレが続いている状況であれば、インフレ前に投資(比較的小さな投資)をして、インフレ後に売上(比較的大きなリターン)で回収できる一方、デフレの場合には、デフレ前にした投資(比較的大きな投資)をして、デフレ後の売上(比較的小さなリターン)で回収しなければならない。

現状、日本でデフレが続いている状況を考慮すると、このローリスク・ローリターンの安定志向の戦略は一般には適合しているとはいえない。リスクを取ってでも、リターンを確保するような戦略が求められている。

 

株主や債権者からのプレッシャーが少ない

欧米と比較して日本の株主や債権者(銀行等)は会社の収益性に対する要求が低いと言われている。会社の業績が黒字か赤字かという点にはこだわるが、どれだけの収益性があるか、という点は、あまり注目されていなかった。

会社として、収益性を上げる方法として、不採算部門から撤退し、収益性の高い部門に資本を集中させることが求められるが、株主や銀行からの不採算部門に対する評価が厳しくないと、正社員の解雇が難しいことも影響して、会社は不採算事業からの撤退の意思決定が遅くなる傾向にある。

「物言う株主」という言葉は皆が知るようになり、シャープの例のように日系企業が海外企業に買収されることや、海外での資金調達の機会も増えているため、経営者として株主や債権者目線で経営指標を管理することも重要となってきている。

 

まずは貸借対照表の資産と損益計算書の費用のチェックからはじめる

上記の通り、日本の企業の利益率が低い理由を検討してきた。いずれも日本の過去にとられた戦略を時代が変わった今でも利用している弊害である。

あなたの会社の利益率はどうだろうか、日本の本社とフィリピン法人で、それぞれどうだろうか。高い又は低いのならば、その理由を明確に説明できるだろうか。

フィリピン法人の経営者として、売上高や利益額の増減ではなく、利益率という点から財務諸表や管理会計表を読んで、自社の理解を深めてほしい。各設備や各費用が、どのように利益に結びついているか、しっかりと判断することである。労務費であれば、従業員の1時間あたりのコストを計算してみて欲しい、それぞれの従業員がそれに見合った業務をしているだろうか?ローカルのスタッフはコストが安いかもしれないが、日本人のコストはどうであろうか。

日本の企業は、「ものづくりは上手いが、価値づくりが下手だ。」と言われてきた。「より良いものをより安く」売ることは誰でもできる。経営者に求められるものは「より良いものをより高く」売る戦略である。

⇒ 次号に続く。

 

伏見 将一(ふしみ しょういち) P&A グラントソントン Japan Desk Director 公認会計士(日本)

2005年に太陽有限責任監査法人入所。上場企業及び外資企業に対する法定監査業務、財務デューデリジェンス業務や上場支援業務等に従事。また、軍師アカデミー会員として中小企業コンサルの経験を有する。2013年よりフィリピンTOP4の会計事務所であるP&Aグラントソントンに出向。日本の会計・税務との相違に基づいたフィリピンの複雑な会計・税務に関する実務的なアドバイス等、日本人経営者および日系企業の多様なニーズに対応したサービスを提供している。

P&A グラントソントンJapan Desk:約170社のフィリピン日系企業に対して、監査、税務、アウトソーシング、会社設立、アドバイザリー等会計全般サービスを日本人4名体制で提供している。

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